石巻日日新聞

コバルトーレ女川 日本一過酷な戦いを制す

努力重ね、呼び込んだ運 いざ〝J〟の舞台へ(中)

女川町 スポーツ 近江 瞬 12月1日(金) 15時01分
全国地域リーグの頂点に立ち悲願の昇格を決めたコバルトーレ(11月26日)

 コバルトーレ女川が悲願のJFL昇格をつかんだ「全国地域チャンピオンズリーグ(全国地域CL)」は、“日本一過酷な大会”とも称される関門だ。昇格筆頭と目されるチームが毎年のように涙をのむこの一筋縄ではいかない舞台で、東北社会人リーグ1部を連覇したコバルトーレは旋風を巻き起こした。(文中敬称略)

 震災後、監督には石巻市出身で、石巻工業高校卒業後にヤマハ(現ジュビロ磐田)やソニー仙台でプレーした阿部裕二(46)が就いた。ロングボールで得点を狙うパワーサッカーが定石とされる地域リーグにおいて、7年間にわたり貫いたのは連携で崩す「パスサッカー」だ。そこには「見た人が『また来たい』と思えるサッカーがしたい」という阿部の信念があった。

 チームに所属するのは震災前からのFW吉田圭と主将の成田星矢を中心に、ほかは「コバルトーレのパスサッカーをしたい」と震災後に加入した選手たちだ。復興の象徴として注目が集まる中、選手たちは全国に数多くあるクラブの中から純粋にサッカーでこの地を踏んだ。決してサッカーエリートとは言えないこのメンバーを阿部は「雑草集団」と表現してきた。

 全国地域CLは残酷だ。負ければリーグ制覇は全く意味を持たず、振り出しに戻るだけ。だからこそ、今季の東北1部で連覇が決まった時の選手たちの表情は「ここからだ」と言わんばかりに引き締まったものだった。

 そうして迎えた全国地域CLの1次ラウンド(11月10―12日)では、東海2位で3年連続7度目の出場となった刈谷FC、元日本代表を擁する九州王者のテゲバジャーロ宮崎、北海道覇者の十勝FCの3チームを相手に、「最初の1秒からフルパワーで強い気持ちで臨もう」と全身全霊を注ぎ、初の決勝ラウンド進出をつかんだ。

◆下馬評を覆し下克上で頂点に

 そして最後の決戦。千葉県市原市のゼットエーオリプリスタジアムを舞台とした決勝ラウンド(同24―26日)にはコバルトーレと宮崎、これに関東チャンピオンのVONDS市原FCと、関西覇者のアミティエSC京都を加えた4チームが名を連ねた。例年、北海道と東北リーグは下に見られ、今年も市原と京都が有力視。次いで宮崎となり、コバルトーレは大穴とされた。阿部は「絶対に爪痕を残す。東北の強さを示す」と何度も口にした。

 宮崎との初戦、市原との第2戦を同点のPK戦の末に勝利して下馬評を覆したコバルトーレ。大会関係者さえ「東北1部でよくここまでのチームを作り上げた」と称賛した。震災という背景で注目を集めてきたチームが、ようやくそのサッカーの質で見る人に衝撃を与えた。

 引き分け以上で昇格が決まる最終戦は退場者を出して数的不利になるも、後半36分にMF髙橋晃司が値千金のゴールを決めて勝利。大歓声とともに響いたサポーターの「コバルトーレコール」に、司令塔の黒田涼太は、「今日ほどサポーターの声援が力になった日はない」と人生初めてのうれし涙をぬぐった。

 一方で京都と市原はあと一歩で昇格を逃した。「運がなかった」のかもしれない。事実、コバルトーレは何度もゴールポストに救われた。だが、それも最後の最後まで諦めずにプレッシャーをかけ続けたからこそ。運も味方にしないと勝ち抜けないのは周知の事実であり、黒田は願掛けに3日間同じソックスをはき続けたほどだ。

 「震災でサッカーどころじゃない中、僕らはサッカーをやらせてもらってきた。これでやっと恩返しのための新しいスタートラインに立てる」。ロッカールームで腰をかけた主将の成田の表情には、重圧から解放された安堵が浮かんでいた。

 昇格を決めたこの試合後にサポーターから響いたのは「おめでとう」よりも、「ありがとう」という声だった。これらの言葉に表れているのは、地域に支えられてきたコバルトーレの姿以上に、地域ととともに戦ってきたチームの歴史だった。

 だがこのコバルトーレ旋風も、次なる挑戦への序章にすぎない。かつては夢物語だったJリーグというプロの舞台が、目の前に現実として見えてきているのだ。

選手とサポーターが喜びを爆発(同)
選手とサポーターが喜びを爆発(同)

最終更新:12月1日(金) 16時34分
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