石巻明声会の日野代表 喉摘者と家族を下支え
希望持ってともに前進「第2の声」習得サポート
石巻市 社会 阿部 達人 2019年5月20日(月) 11時55分のどに生じたがんの治療で喉頭(こうとう)を摘出した人(喉摘者)は、声帯を震わせる従来の発声ができなくなる。これがもとで引きこもりがちになる人もいるが、訓練や器具の使用により〝第2の声〟を獲得できる。7年前に声帯を失った日野吉夫さん(65)=石巻市湊=が3年前に立ち上げた石巻地方の喉摘者患者会は、本年度から「石巻明声会」に改称。摘出手術後に一歩を踏み出せないでいる人やその家族に対し、より積極的な啓発活動を展開していく。(阿部達人)
声帯を含む喉頭は発声や肺の保護の役割を持つ器官。この部位のほか、食道や舌にがんなどを発症すると、場合によっては摘出手術が必要となる。
摘出後は一度声を失うが、「食道発声」や手術で器具をのどに置く「シャント発声」、専用機器を用いた「電気式人工喉頭(EL)発声」で声を取り戻せる。県内では、県喉頭摘出者福祉協会「立声会」が、全国的にも珍しい宿泊可能な発声訓練施設を設けている。
地元の喉摘者患者会で代表を務める日野さんに喉頭がんが発覚したのは平成24年。医師に提示された選択肢は抗がん剤と放射線による治療か、喉頭摘出の2つ。「命には代えられない」と、日野さんは声を失っても再発の可能性が低い外科手術を選んだ。
声を出せない生活は予想以上に辛い。伝えたいことを思うように伝えられず、妻を呼ぶにも「ドンドン」とテーブルをたたく。そのストレスは自身だけでなく、家庭全体にも広がった。日野さんは会話勝負の営業マンとして30年以上働いてきたが、自営の自動車部品販売会社も畳んだ。
この生活を変えるために習得を目指したのが食道発声。肺に入れた空気を押し出し、その際に食道の粘膜を震わすことで声を出す方法であり、県喉摘者福祉協の施設に通って比較的早い1年程度で身に付けた。
こうして以前に近い生活を取り戻し、26年には全国喉摘者発声大会の食道発声の部に出て4位入賞。第2の声を得る大切さを伝えるための出場であり、同じ思いから28年には県喉摘者福祉協の石巻支部として「石巻立声会」を立ち上げた。
活動は毎月25日に石巻市保健相談センター=鋳銭場=で開く情報交換会。内容は器官のケアや発声方法、日常生活における悩み事のサポートが中心。当事者以外にも、その家族の参加もある。
しかし所属する石巻地方の会員20人は、すでに代替の発声方法を身に付けている人たち。同会によると、地域には会員以外に24人の喉摘者がいるという。そうした人を訓練につなげるとともに発声習得を支え、一般にも広く理解を訴えていこうと今回、改称を決めた。
新名称での発足式は4月25日にあり、初参加者を含む喉摘者ら約10人が出席。デモンストレーションでは、3つの発声法それぞれを用いた朗読やスピーチが行われた。また、発声法ごとの訓練期間や初期投資、ケアなどの特徴について、専門業者を交えて紹介した。
日野さんは「発声方法を身に付けていない喉摘者は、筆談などで代替している人も多い。喉摘者の痛みがわかる仲間を支えていくためにも一人でも多く参加してほしい」と呼びかけていた。
問合せは日野さん(090―5354―5117)まで。
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