石巻日日新聞

「震災遺構」① 市民の受け止めさまざま

次代への軌跡

石巻市 次代への軌跡 熊谷 利勝 2019年11月27日(水) 8時42分

 石巻市で約3600人が死亡・行方不明となった東日本大震災から8年8カ月が経過し、復興のまちづくりが進む。同時に津波の痕跡も姿を消しているが、被害を二度と繰り返さないためにも、震災の記憶を風化させず、伝えていくことが大事になる。その手段の一つが被災した建造物を保存する震災遺構の整備。市が門脇小学校と大川小学校の保存を決めた経緯を振り返り、伝承への課題を探る。

 市は震災の年に策定した復興基本計画で、震災伝承とその施設の整備、保存に取り組むこととし、平成25年11月から約1年かけ、有識者や市民らによる検討委員会を開催。委員会は市に門脇小校舎の保存を含めた提言を行った。一方、大川地区の住民でつくる復興協議会は27年5月、児童・教員84人が犠牲となった大川小の校舎を保存するよう要望した。

 これらの動きを受けて市は翌月から職員の調整会議を開き、12月に保存の諸課題をまとめている。当然ながら、保存や公開の範囲が少ないほど初期費用や維持管理費が抑えられるという内容だ。市は並行して市民に賛否を尋ねるアンケートを実施したほか、年明けに市民の公聴会を開催。受け止めはさまざまで、防災の学びの場としてとらえるか、多額の維持費がかかるものを後世に残すかなどで賛否両論があった。

 これらを踏まえ亀山紘市長は28年3月、門脇小の一部保存と大川小の全部保存を表明。亀山市長は当時、「教訓の伝承は最大被災地の石巻の使命」との認識を示した上で、「2つとも重要な震災遺構。解体、保存の意見が拮抗する中で、辛い思いをした遺族に配慮した保存を検討したい」と述べた。その後、住民や語り部らの3つの検討会議が立ち上がり、29年6月には市の全体的な震災伝承計画と各校舎の整備方針が策定された。

 旧門脇小は、先月から校舎の一部解体工事が始まった。校舎に手を加えず周辺整備する大川小は、来年4月からの工事開始を予定。ともに令和3年度の供用開始を見込む。

 特に門脇小は周辺が区画整理され、被災地でも珍しい住宅地にある遺構となる。南側では石巻南浜津波復興祈念公園が整備中。この一帯に今後、多くの人が足を運ぶとすれば、地域の理解や協力が必要になる。

最終更新:2019年11月27日(水) 8時44分

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