石巻日日新聞

「震災遺構」③ 伝承へ具体の議論必要

次代への軌跡

石巻市 次代への軌跡 熊谷 利勝 2019年11月29日(金) 8時45分
天板が消失し、骨組みだけの机が残る

 住民が不満を抱えたまま、東日本大震災で被災した旧門脇小学校の遺構整備が進む。本校舎は両端が解体され、中央部分の保存となるが、亀山紘市長は「全体保存に負けない震災遺構になる」と言う。遺構整備は、伝承という大きな目的のための一つの対応に過ぎない。改めて残す意義を考えていく。

 門脇小本校舎は震災被災地で現存する建物で唯一、津波による火災の痕跡を残す。各地で被災建物が姿を消す中、門脇小は保存の決定に時間を要したことで価値が高まったとも言える。ただ、本校舎は築後約60年と老朽化。整備後の公開では、危険性が高いとして内部に見学者を入れず、北側に新設される観察棟から眺めることになる。

 内部は工事が始まるのに先立つ先月、報道公開されている。1階は主に津波被害で、散乱した備品やほこりまみれのランドセルがあった。当たり前に学校生活が送られていたことを思えばさびしくなるが、震災を経験した人には特に驚きはない光景だろう。

 しかし、2階に上がると風景は一変し、丸焼けの東側に対して中央から西側は変哲もない教室が続き、ギャップが印象的。焼けていない部屋も机があちこちを向き、地震後の混乱が目に浮かぶ。3階は全体がひどく焼けており、火は東から上にいくほど西に広がったことが分かる。

 分からないのは、ここから一体何を学ぶのか、ということ。焼け跡は一見の価値はあるが、それだけだ。ここで起きたことの説明や物語が要る。むしろ、それがなければお金をかけて残す意味はない。

 地震当時、学校にいた200人以上の児童は、津波が来る前に高台へ避難。校舎に逃げ込んだ住民らは火災が迫る中、協力して2階の窓から背後の山に脱出した。一方、校庭では大勢が犠牲になったと伝えられている。

 市は現存する特別教室棟と体育館も改修。学校だけでなく市全体の被害や復興の状況も伝え、防災学習に役立てる。津波火災の痕跡は残され、市の言う通り全体保存でなくてもその恐ろしさは伝わる。一方で、思い出がある校舎に手を付けてほしくない住民の気持ちも分かる。工事が始まった今、両者が歩みより、具体的に何をどう伝承するのか知恵を出し合うことが望まれる。

最終更新:2019年11月29日(金) 8時45分

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