石巻日日新聞

最大のライバルは自分自身 日体大陸上部副主将 森 美悠さん

石巻出身のスプリンター 震災乗り越え夢実現へ

石巻市 スポーツ 山口 紘史 2018年10月20日(土) 21時13分
住吉中から強豪の東北高、日体大に進み活躍を続ける森さん

 世界で活躍するアスリートを輩出し続ける日本体育大学。40以上の運動部があり、中でも部員数が男女合わせて約400人を数える陸上部の存在感は大きい。女子は昨年、大学の頂点を決めるインカレで総合優勝した常勝軍団。猛者がひしめく中、副主将を担うのは石巻市出身で4年生の森美悠さん(22)。100―400メートルの短距離とリレーが専門で、卓越したコーナーワークとバトンパスの技術が光る。「最大のライバルは自分自身」と語る森さん。2年後の東京五輪を意識する。(山口紘史)

 森さんが陸上を始めたのは住吉小学校の3年生の時。幼少期から足が速く1年生の運動会でリレー選手に選ばれたが、2年生では外れた。森さんは「選ばれなかったことが悔しく『速くなりたい』と両親に相談した」と振り返る。出会ったのが住吉・開北陸上スポーツ少年団。すぐに入団して本格的に陸上を学び始めると頭角を現し、6年生では県大会を制する力をつけた。

 中学ではさらに技術を磨き、大会が待ち遠しかった。しかし2年生の3学期、思いもよらぬことが起きた。東日本大震災。駅前北通りの自宅が被災し、家族はみなし仮設住宅での生活を始めた。森さんは被害が少なかった先輩の家に寄宿し、中学校に通い続けた。

 石巻市は復旧のさなかで住吉中体育館も避難所となっていた。とても陸上の練習に取り組む環境ではなく、気持ちの整理がつかない日々が続いた。本来は強豪高校からスカウトがかかる時期だが、心が痛む中で練習にも身が入らず、時間だけが流れた。

 陸上にすべてを注いできた森さんは、出口の見えない暗いトンネルの中を歩いているようだった。そこで手を差し伸べ、再び導いてくれたのが家族。両親は被災した自宅からジャージを見つけ、こう言った。「陸上を続けなさい」。

 森さんの中で何かが弾けた。「私を励まそうとしてくれている両親の気持ちが、何よりもうれしかった」。気持ちをリセットし、ジャージに袖を通してシューズのひもを締めた。

 県内屈指の強豪東北高校に進み、エースとして成長。3年生の県大会では200メートル、400メートル、4×100メートルリレー(4継)、4×400メートルリレー(マイル)でいずれも優勝。驚異の4冠を手にし、東北大会は400メートルを54秒44で走破。宮城県選手の歴代記録を塗り替える結果となり、いまも破られていない。

東京五輪 目指して

 日体大は陸上競技が盛ん。短距離、長距離など4―5グループがあり、短距離グループだけで200人余の大所帯。森さんはコーナーワークとバトンパスのうまさで、1年生は短距離種目の4継の3走、3年生ではマイルのレギュラーを任された。

 昨年のインカレはマイルで優勝。今年は4継予選に出場し、決勝オーダーには入らなかったが、チームは日本学生記録を更新し、優勝。副主将も務める森さんは、今や名実ともに日体大の顔になった。

 「記録が出てうれしいのは一瞬。それよりも記録が出ないときのほうがずっと長く、辛い。それでも一瞬ですべてが報われたと感じられるから陸上を続けられる」

 努力を重ねた者しか味わえない陸上の魅力を語る森さんの目は輝いていた。

 大学卒業後も陸上は続けていくという。「そのためには記録を出したい。2年後の東京五輪を意識しており、出場が夢であり目標。一番のライバルは自分自身」。自らを追い込んで上を目指す覚悟がにじみ出ていた。

   ◇  ◇   

 今月27―28日には福岡県で行われる日本選手権リレー競技大会に出場する。日体大は常勝軍団として連覇を達成することが目先の目標。中でも森さんは震災を乗り越え、困難に屈しない心を宿して常に高みを目指す。

 「諦めずに続けていけば必ず目標にたどり着く。自分がなりたいものを強く描き、それに向けて夢を追い求めてほしい」。古里でスポーツに励む子どもたちにエールを送る。

 森さんも古里の支えを忘れず、きょうもトラックに立つ。挑戦に終わりはない。

最終更新:2018年10月20日(土) 21時13分

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