広がるシカ被害 稲井にまで
石巻日日新聞 2017年5月18日(木) 石巻市稲井地区で、野生のシカによる被害が深刻化している。これまで牡鹿半島を中心に農作物の食害や自動車への接触事故などが多発していたが、行動範囲が農業地帯にまで及んできたことに、農業者は警戒を強める。柵を高めるなどして部分的に追い払っても、地域全体から駆逐することができず、根本的な解決を見いだせない状況に住民らは頭を悩ませている。
水沼字中入畑の農業、岡良一さん(67)は、畑のシカ対策に本腰を入れている。昨年は白菜が1200株、つぼみ菜が1千株など出荷を前にした農作物が軒並み食べ荒らされたり踏みつぶされたりして30万円以上の損害となった。そのため今年は設置していた柵を更に高くした。
稲井地区のシカによる被害はとくに震災以降に目立つ。稲や小麦なども被害を受けており、その範囲も広がってきている。岡さんの近隣の約40世帯の大部分も農家で、さまざまな対策を講じているものの被害は年々増加する傾向だ。
今年、岡さんの畑ではまだ被害が出ていないが、対策は万全とは言えず不安な日々が続く。「シカの問題は地域全体で考えなければ解決できない。被害を減らすには徹底的に排除するしかない」と話し、定期的に畑を見回っている。
■対策講じるも根本解決できず
シカによる県全体の農業被害は平成25年度が1464万円、26年度1845万円、27年度1560万円。震災前と同じ水準で推移しているが、津波で多くの家屋が失われた震災後に被害エリアが拡大しており、河北地区では広範囲にわたって収穫前の稲が食害に遭っている。
震災前からシカ問題が顕著化していた牡鹿半島では、それに加えて交通面への影響も増加。車との衝突事故は毎年40件前後発生しており、雄勝や河北、北上地区でも月に1件のペースで物損事故が報告されているという。
県はこれまで金華山など離島を除く石巻市と女川町を対象に「牡鹿半島ニホンジカ保護管理計画」を策定し対策を講じてきた。しかし、生息域の拡大を押さえることができないため、27年度には“保護”の文言を削除した「県ニホンジカ管理計画」を策定。本年度から第2期となり、34年までの5カ年で計画を進めている。
同計画では、狩猟により年間1920頭以上の捕獲を目標に掲げ、このうち1700頭以上については牡鹿半島およびその周辺としている。これに対して捕獲数は26年度1761頭、27年度1845頭と増えているが目標達成まではいっていない。県は今後も対策を強化していく考えだ。
【写真】畑の周りに高いネットを張り巡らせてシカ対策を講じる岡さん
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